最先端研究で新発見!うつ病の原因はウイルスだった

世界一進んでいるといわれる日本の疲労研究。その一端を学べば疲労のメカニズムと対処法が見えてきます。
「疲労大国」といわれる日本。厚生労働省の疲労研究班による1999年の調査では、日本人の約6割が何らかの疲れを感じていることが判明しました。その後、さまざまな角度から疲労研究が進められ、疲労のメカニズムは徐々に明らかになってきています。
今回は、最前線の研究を担う研究者にインタビュー。疲労の最新情報について、わかりやすく解説します。

  

同志社女子大学
田中 雅彰 教授

\今回のREPORT/

東京慈恵医科大学
近藤 一博 教授

\今、ここまでわかった/
研究者に聞く疲労研究の最前線 REPORT2

今回インタビューしたのは、東京慈恵医科大学 近藤一博 教授です。

疲労に関連・起因する疾患についての研究において、うつ病との関係をお話いただきました。

近藤一博教授プロフィール写真

東京慈恵医科大学  近藤一博 教授

プロフィール

東京慈恵医科大学ウイルス学講座教授。同・疲労医科学研究センターセンター長。
日本ウイルス学会評議員、日本疲労学会理事。

著書に『疲労ちゃんとストレスさん』(河出書房新社)、『うつ病の原因はウイルスだった!』(扶桑社)など。

目次

1.ウイルスの研究からうつ病のメカニズムを解明
2.ウイルスと炎症でうつ病に?!うつ病を引き起こす2つの要因
3.疲れている人ほど、うつ病になりやすい

ウイルスの研究からうつ病のメカニズムを解明

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、うつ病の患者数は世界中で2~3倍に増加しているといわれています。2030年には、心疾患や交通事故を抑えて「健康に過ごせる期間を失わせる」疾患の第1位になると予想されています。私たちは長年にわたり、ウイルス学の立場から疲労やうつ病の研究に取り組んできました。そして、日本人のほぼ100%の人が感染しているヒトヘルペスウイルス6から、うつ病の原因となる「SITHー1遺伝子」を世界で初めて発見しました。この遺伝子が発現すると、特殊なたんぱく質がつくられ、脳内のストレス物質が増加します。そこへ、過度の疲労やストレスによって発生した炎症性サイトカインが大量に流れ込むと、脳に炎症が起こり、うつ病になるのです。この研究により、心の弱さや性格がうつ病の原因ではないことが明らかになりました。

こうした研究成果を生かしながら、現在は、うつ病の新しい治療法や、新型コロナの後遺症に対する治療法の研究も進めています。

ウイルスと炎症でうつ病に?!うつ病を引き起こす2つの要因

これまでの研究で、疲労による脳の炎症のメカニズム(うつ病の引き金)と、その刺激を増幅させる体の状態(うつ病の素因)の一部が明らかになりました。

●うつ病の引き金

疲労やストレスによる脳の炎症

eIF2α のリン酸化によってつくり出された炎症性サイトカインが脳に伝わると、疲労感を引き起こします。さらに炎症性サイトカインの量が増えると、脳神経が炎症を起こし、うつ病の引き金となります。

※eIF2αとは…体内でたんぱく質をつくるために必要な物質

●うつ病の素因

通常は耐えられるはずのストレスがヒトヘルペスウイルス6の再感染により増幅

脳の構造図

においの情報を処理する脳の領域「嗅球」に、疲労によって再活性化したヒトヘルペスウイルス6が感染すると、SITH-1というたんぱく質がつくられます。これが嗅球の一部に細胞死を引き起こし、脳内にストレス物質が増加して、ストレス刺激を増幅し、炎症が促進される状態となります。

疲労やストレスが多い人ほど嗅球への感染量が多い

ヒトヘルペスウイルス6は、普段は免疫細胞の中でじっとしていますが、極度の疲労やストレスで再活性化し、口内で増加。鼻から嗅球に再感染します。このため、強い疲労やストレスにさらされることが多い人ほど、再感染の量は多いと考えられます。

疲れている人ほど、うつ病になりやすい

体内でのSITH-1の発現量を調べた結果、ヒトヘルペスウイルス6の嗅球への再感染量が多い人は、少ない人と比べて12.2倍うつ病になりやすいことがわかりました。
また、疲労因子が増えると、脳の炎症を引き起こす炎症性サイトカインがつくられるため、疲れている人ほどうつ病になりやすいといえます。

ヒトヘルペスウイルス6の再感染量が多い人は
うつ病へのなりやすさが

12.2倍


うつ病患者のうち、
ヒトヘルペスウイルス6の再感染量が多い人は

79.8%

※東京慈恵医科大学 ウイルス学講座研究結果より

世界をリードする日本の疲労研究REPORTまとめ

世界一進んでいるといわれる日本の疲労研究。その一端を学べば疲労のメカニズムと対処法が見えてきます。実態解明が抗疲労の鍵。日本で本格的な疲労研究が始まったのは、1990年代のこと。これまでに、疲労発生のメカニズムが明らかになり、疲労の測定法が確立されるなど、世界の疲労研究をリードする成果が報告されています。

疲労研究テーマ一覧

●疲労のメカニズムを解明するための研究

■発生のしくみ…『脳科学で明らかになった疲労のメカニズム』
■測定・評価方法
■慢性化

●疲労に関連起因する疾患についての研究

■うつ病… 『最先端研究で新発見!うつ病の原因はウイルスだった』

■新型コロナ

■筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群

●抗疲労(ソリューション開発 社会システム構築)

■抗疲労成分

■作業効率と疲労

●疲労と臨床

■睡眠障害

■自律神経機能との関わり

■生活習慣病との関わり