スポーツ疲労の新常識

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軽快に。晴れやかに。秋こそスポーツ!

熱気に包まれたパリ大会は終幕を迎えましたが、声をからして応援していると自分も体を動かしたくなるものですね。暑さもようやく落ち着いて、スポーツを楽しむには絶好の季節がやってきました。

これまでも意識して体を動かしてきたという方も、これから新たに取り組むという方も、気になるのはやはり疲労との付き合い方ではないでしょうか。けがなどを防いで長くスポーツを楽しむにも、また、自身のパフォーマンスを最大限に発揮するにも、疲れをうまく解消してコンディションを整えることが非常に大切です。
スポーツに起因する疲労と、科学に基づいた回復術を知って、この秋、スポーツを心から楽しみませんか。

始める前に知っておきたい!
スポーツ疲労の新常識

運動とは切っても切り離せない疲労ですが、疲労については今なお誤解されていることも。
ここでは、最新科学で明らかになったスポーツ疲労の新常識をご紹介します。

新常識01
乳酸は疲労物質ではなかった!

「筋肉に乳酸がたまると疲れる」
以前は、スポーツに取り組む人などがそんな言葉を口にすることがよくありました。
「乳酸=疲労物質」という説が出てきたのは、今から約100年前。現在では、その説は誤りであったことが明らかになっています。

What is NYUSAN!?
乳酸のホントの話

乳酸は、糖質をエネルギー源として利用するときにつくられる物質。短距離走のような強度の高い運動をすると、より多く発生します。筋肉を動かした後には乳酸が増えているので、乳酸が疲労の原因と考えられていたのです。

しかし、近年の研究によれば、乳酸は疲労の原因となるような老廃物ではなく、エネルギー源としてむしろ疲労の軽減に役立つとされています。

新常識02
ランナーズハイは、実は危険!?

ランニングなど負荷の大きい運動をしていると、苦しいはずなのに、逆に高揚感や多幸感に包まれることがあります。それが「ランナーズハイ」。そのとき脳内では、疲労感や痛みを消すような働きを持つ脳内物質が分泌されています。

「疲労感」は、体が疲れていることを自覚させ休息をとらせるための重要な生体アラームの一つですが、私たち人間の脳は防御的に疲労感をマスキング、つまり覆い隠してしまうことがあるのです。

脳内物質によって疲労感がマスキングされても、疲労そのものが解消されているわけではありません。仕事などでも集中して取り組んでいると疲れを忘れて快感を覚えることがありますが、警告を無視して動き続けると当然疲労は蓄積します。その点は、お忘れなく。

新常識03
スポーツで最も疲れるのは、筋肉ではなく「脳」だった。

まず、ある実験の結果をご紹介しましょう。

さまざまな運動を4時間行ってもらい、筋肉や内臓などが受けたダメージを測定するとともに、疲労感についても尋ねました。その結果、自転車こぎやジョギングなどの運動では、筋肉へのダメージはほとんど見られませんでした。

その一方で、被験者たちは疲労感を訴えたのです。筋肉のものが疲れているわけではないにもかかわらず。実際に動かしている筋肉にダメージがないのであれば、疲労はどこで起こっているのでしょうか。

運動をすると、体温や呼吸、心拍、血流などを調節するために自律神経が忙しく働きます。運動でも疲れるのは、こうした自律神経の働きを司る脳なのです。

疲労と疲労感は違う!

激しい運動などによって脳にある自律神経の中枢が酷使されると、大量の活性酸素が発生して「疲労」が生じます。すると、これ以上の活動を制限するよう、脳から「休め」というシグナルが送られます。それが「疲労感」の正体です。

「疲労」と「疲労感」の違いや、疲労感がマスキングされてしまうということを知っておくと、自分の体の状態をより意識して、いたわることができますね。決して無理をしないことや、しっかりと疲労回復に努めることが、スポーツを長く楽しむことにもつながりそうです。

vol.65【秋】の記事