脳科学で明らかになった”疲労のメカニズム”
世界一進んでいるといわれる日本の疲労研究。その一端を学べば疲労のメカニズムと対処法が見えてきます。
「疲労大国」といわれる日本。厚生労働省の疲労研究班による1999年の調査では、日本人の約6割が何らかの疲れを感じていることが判明しました。その後、さまざまな角度から疲労研究が進められ、疲労のメカニズムは徐々に明らかになってきています。
今回は、最前線の研究を担う研究者にインタビュー。疲労の最新情報について、わかりやすく解説します。
\今回のREPORT/
\今、ここまでわかった/ 研究者に聞く疲労研究の最前線 REPORT1
今回インタビューしたのは、同志社女子大学の田中 雅彰教授です。
疲労のメカニズムを解明するための研究において、発生の仕組みについてお話いただきました。
同志社女子大学 田中雅彰教授
プロフィール
同志社女子大学 生活科学部食物栄養科学科教授。
大阪市立大学医学部卒業。
大阪市立大学大学院医学研究科生理系専攻博士課程医学博士取得。
長年にわたり脳科学的なアプローチで疲労を研究。
目次
1.脳科学で明らかになった疲労のメカニズム
2.研究からわかったこと!アクセルとブレーキの両方の働きで脳の機能を維持
3.脳のアクセル・ブレーキ機能を正常に働かせるには
脳科学で明らかになった疲労のメカニズム
疲労は、一晩しっかりと睡眠をとれば回復する”急性疲労”と、重い疲労感が何日も持続する”慢性疲労”の2種類に分けられます。これまでの研究で、この2つは脳科学的に根本から異なることが明らかになっています。
メカニズムが異なる「急性疲労と慢性疲労」
私たちの脳には、疲労やストレスにさらされたときに脳の機能を維持するための、アクセルとブレーキの働きがあります。
急性疲労は、この2つのシステムがうまくバランスをとって脳のパフォーマンスを維持している状態と考えられますが、強い疲労やストレスに継続的にさらされると、アクセルとブレーキの両方が過度に働いて慢性疲労につながる可能性があります。
また、疲労感は私たちに働き過ぎを知らせる警報のようなものですが、慢性疲労の人では、疲労のきっかけに触れるだけで、実際には疲労していなくても重い疲労感が発生することがわかりました。
疲労の予防や回復については、こういったメカニズムを踏まえた上で考える必要がありそうです。
研究からわかったこと!アクセルとブレーキの両方の働きで脳の機能を維持
脳には、機能が低下しそうなときに働きを促進するアクセルと逆に頑張りすぎないように抑制するブレーキとが備わっており、両者が適度に働いて脳機能を維持しています。
急性疲労
強い疲労やストレスが持続すると
アクセルとブレーキの両方が過剰に働き、交感神経が活性化して酸化ストレスが高まる
↓
過剰な働きを続けることで、脳神経自体がダメージを受ける
↓
疲労を回復させる副交感神経の働きも弱まる
慢性疲労
●酸化ストレス
活性酸素によって細胞が傷つけられ、細胞や組織の機能が低下。
●炎症
炎症性サイトカインが発生する一方で、抗炎症作用のあるコルチゾールというホルモンの分泌が低下し、体内に炎症が起こる。
●エネルギー欠乏
エネルギー産生を促す成分が不足しがちになり、疲労から回復するためのエネルギーが欠乏。
脳のアクセル・ブレーキ機能を正常に働かせるには
脳のアクセル・ブレーキが過剰に働くのを防ぐためには、体内で起こる疲労をできる限り抑え、回復を促すことが重要。
毎日の食生活で心がけたいことを2つご紹介します。
❶抗疲労に役立つ食品成分を積極的に摂取する
抗酸化成分とエネルギー産生を助ける成分をご紹介します。
●抗酸化成分
活性酸素を消去して酸化ストレスを抑える抗酸化成分を取りましょう。
イミダゾールジペプチド成分
鶏むね肉や、マグロ、カツオなどに多く含まれる成分。
炎症性サイトカインの増加を抑え、疲労感と疲労の両方に効果があります。
リンゴポリフェノール
リンゴの皮に多く含まれる成分で、強い抗酸化力をはじめ、多くの健康効果が認められています。
茶カテキン
ポリフェノールの一種で、緑茶の渋みや苦みのもととなる成分です。
●エネルギー産生を助ける成分
細胞の活動や回復に必要なエネルギーをつくり出す際に欠かせない成分です。
コエンザイムQ10
コエンザイムQ10は、イワシや牛肉などに多く含まれます。エネルギーをつくる際に働くほか、抗酸化作用もあります。
ビタミンB群
糖質や脂質からエネルギーをつくり出す働きを助けます。肉や魚、野菜、玄米などいろいろな食品に含まれますが、不足しやすい成分です。
❷食事のとり方を工夫する
●規則正しい時間に食事をとる
朝食をとることや食事を規則正しくとることは、体のリズムを整えるのに大切です。学生を対象とした研究では、朝食を抜く、食事を不規則にとるといった生活習慣と疲労との間に、強い関連があることが明らかになりました。
●バランスよく栄養を摂取
エネルギー源となる糖質、脂質、たんぱく質をはじめ、ビタミンやミネラルなどの栄養素をバランスよく摂取することが大切です。肉や魚、野菜のほか、海藻類やフルーツもとるように心がけましょう。
●家族や友人と一緒に
家族や親しい人と食事をとることは、疲労感やストレス、学習意欲に良い影響を及ぼします。小学生を対象とした研究では、朝の疲労感や体の不調が少ないことも報告されています。
世界をリードする日本の疲労研究REPORTまとめ
世界一進んでいるといわれる日本の疲労研究。その一端を学べば疲労のメカニズムと対処法が見えてきます。実態解明が抗疲労の鍵。日本で本格的な疲労研究が始まったのは、1990年代のこと。これまでに、疲労発生のメカニズムが明らかになり、疲労の測定法が確立されるなど、世界の疲労研究をリードする成果が報告されています。
疲労研究テーマ一覧
●疲労のメカニズムを解明するための研究
■発生のしくみ…『脳科学で明らかになった疲労のメカニズム』
■測定・評価方法
■慢性化
●抗疲労(ソリューション開発 社会システム構築)
■抗疲労成分
■作業効率と疲労
●疲労と臨床
■睡眠障害
■自律神経機能との関わり
■生活習慣病との関わり